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2009年6月21日 (日)

ドニゼッティ「愛の妙薬」(コンサート記憶帳⑧)

  • Myouyakuposuta ドニゼッティ(イタリア、1797~1848)のオペラ「愛の妙薬」を、東京文化会館で鑑賞した。藤原歌劇団創立75周年記念公演、2009年6月13日(土)。

  • きっかけは、去る5月12日(火)に、市内のアミュー立川小ホールで、藤原オペラプレステージとして、「愛の妙薬」のレクチャーコンサートがあった。その際、今回の公演監督である岡山廣幸さんが、解説をしてくれ、『人知れぬ涙』ほかのハイライトの披露があり、せっかくの機会だから、ぜひ本物を見たいと、出かけることにした。

  • 19世紀の北イタリアを舞台に、純朴な村の若者ネモリーノが、地主の娘で村一番の美人アディーナに夢中で、勇気を出して愛を告白するが、つれなくされるだけ。そこへいかさま薬売りのドゥルカマーラがやってきて「愛の妙薬(実は安ワイン)」を偽の効能をならべてひと商売する。偽薬を売りつけられてそれを飲んだネモリーノは、強気になり、酔っ払ってかえってアディーナの自尊心を傷つけてしまう。腹を立てたアディーナは勢いで、部隊を率いてやってきた女好きの軍曹ベルコーレのプロポーズを受けてしまう……。ストーリーは単純だ。

  • 今回の舞台は、原作の19世紀前半北イタリアの農村でなく、大胆にも21世紀現代のショッピングモールの高級ブランド品売り場に設定されている。アディーナ(川越塔子)はショッピングモールの美容部員、ネモリーノは商品補充係という役回り。

  • 幕が開くと、牧歌的な農村風景とは似ても似つかない、銀座三越、はたまた新宿伊勢丹かと見まがうようなブランド売り場いっぱいに、制服バッチリの美貌ぞろいの女性店員が、来店客に応対している。個性豊かなファッションンのショッピング客、時間つぶしのビジネスマンらしい男たちなどが、そぞろひっきりなしに舞台上を行き交って、それらの狭間で忙しそうに、商品補充係のネモリーノ君(オペラ界の貴公子中鉢聡!)がなにやら作業をしているという都心の情景である。われわれ聴衆は一気にその華やかな売り場に引き込まれる。

  • ともかく音楽が透きとおるように美しかった。Myouyakuposuta2 演出のマルコ・ガンディーニ(イタリア、1966年生まれ)が言っているように、ドニゼッティのオペラは、メロディが゙豊富、さまざまな美しい旋律が次から次へと繰り出される。その美しい音楽に乗せて、ドラマのメインテーマである、ネモリーノがアディーナから得たいと望む『淡く暖かな想い』をめぐって、ソプラノ・テノール・バリトンが、愛・怒り・落胆・憂鬱・喜びと云った感情を劇場いっぱい、途切れることなく、歌いあげていく。

  • アディーナは本当はネモリーナを愛していて、その目に涙を浮かべている。それを見たネモリーノが、劇中第1の名歌「人知れぬ涙」を歌うところで、オペラはクライマックスとなる。4階まである広い劇場いっぱいの目と耳が、舞台上の中鉢聡に集中するなか、決して大柄ではない「貴公子」の歌うアリアがおよそ5分間、しみじみと、そして力強く流れて行った。

  • もうひとつ印象的だったのは、村の広場(舞台ではショッピングモール売り場の一角)で、村娘(化粧品売り場の女性たち)が、『ネモリーノが伯父の遺産で大金持ちになった』と小声で合唱をはじめるところ。ひそひそと話していてもいつか興奮して大声になり、次第にウキウキしてくる娘たちの様子が微笑ましくも美しく、耳に心地よく入ってきた。

  • 2時間半ほどのはなやかな舞台は、あっというまにフィナーレになってしまった。あえて注文すれば、一つは字幕が暗く、読みづらかったこと。あとひとつは、現代のショッピング・モールと、イタリア製の軍服、その軍隊にネモリーノ君が一度は入隊を決心するという物語設定には、軍隊と市民生活の結びつきが希薄な日本の今の世には、違和感が残った………。もっとも、軍曹ベルコーレを演じた森口賢二ははまり役で、舞台を盛り上げていた。立川でのプレコンサートでも聴きなれていて、親しみが持てた。

  • 薬売りのドゥルカマーラ役のバリトン党主税は、ド派手な衣装、早口の大道芸人のような話術と滑稽なアリアで、実力者という感じ。アディーナのソプラノ川越塔子は才能豊かで素晴らしかったが、数多くいる舞台上の女性販売員の制服姿の中の一人で、歌い出してしばらく経たないと、アディーナを識別できないもどかしさがあった。やはり、大地主の娘アディーナには、イタリアばりのドレス姿を見せてほしかった。

  • まだまだ、感じたことがいっぱいあったが、書ききれない。ともかく、見ごたえがあり、楽しいオペラ鑑賞だった。

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