2009年1月25日 (日)

「アイルランド問題とは何か」(鈴木良平、丸善ライブラリー)

Airuranndohonn  友人が「次の海外旅行は、アイルランドに行ってみたい」と話していた。世界地図の一番左に位置する島、イギリスの隣、緑が連なり、大西洋の海岸美などのイメージが、あるのだと思う。

 わたしは1995年のことになるが、北アイルランドを訪ねたことがあり、それ以来、「北アイルランド紛争」「アイルランド経済の急成長」などのニュースが報じられると、それなりの関心を持ち続けていて、5年ほど前に買った「アイルランド問題とは何か」という、この国の歴史を掘り下げたこの新書本を、あらためて開いてみた(鈴木良平著、丸善ライブラリー刊)。副題には「イギリスとの闘争、そして和平へ」とある。

 正確に調べたわけではないが、ニュース前者の「北アイルランド紛争」は、最近沈静化しているものの、根本的な解決にはまだ程遠い現状にあり、後者の「経済急成長」はEU統合以来の、イギリス依存から脱却した積極的な外資導入による急成長が、今次の世界経済危機によって、激しく揺さぶられているらしい。

 この本は、2000年刊なので、直近の状況は反映していないが、アイルランドに留学歴もある名古屋工大・法政大などの教授の肩書のある方の書いたもの。カバーには『IRAとは何か。なぜアイルランドは南北に分割されたのか。アイルランドとイギリスの血を血で洗うような闘争の根底には何があるのか。本書では、両国の紛争の歴史と、宗教的な背景をたどり、現在の政治状況と今後の展望を語る』とある。この国の歴史は、民族・宗教・イギリスの政治状況、アメリカをはじめとする国際政治事情など混迷の連続だ。日本にはなじみの薄い国だけに、読み通すのは、必ずしもたやすくはないが、筆者のアイルランド問題にかける熱意が、それを補ってくれる内容だった。

 アイルランドの悲劇、現在なおこの国の「北6州」が分断されているのは、1169年(鎌倉幕府が開かれる3年前)に、アングロ・ノルマンがアイルランドを侵略したことにはじまる。以来、アイルランドは、侵略者との戦い、それへの密告と裏切りが交錯する。そして17世紀初頭の北アイルランドへのプロテスタントの入植とカトリックとの差別、イギリスによるアイルランド併合などなどに翻弄される。Arurannomidori

 私が旅した北アイルランドは、40色といわれる緑が折り重なる美しい国で、2泊3日の旅行者にとっては、紛争を実感することもなく、「最果てのおとぎの国」という印象だった。昼食に立ち寄った素朴なレストランで「アイリッシュコーヒー」を運んでくれた少年、肉付きのよかった少女の笑顔が印象的だったし、世界最古のウイスキー『ブッシュミル』の人懐っこい工場従業員などを思い出す。が、もしかして、あの人たちも、紛争の渦中に放り込まれていたのかもしれない。

 海岸美では、ジャイアンツ・コーズウェイという奇景があった。生憎の雨と風だったが、大西洋の荒波、波間の向こうのすぐ手の届きそうなところがスコットランドだろうか、などと、この奇岩風景に立ちながら想像したものだった。写真は当時のパンフレットから。

Jaianntukozuwei

 最後に、当時の北アイルランドの失業率が確か.14%で、市民の間のカソリックとプロテスタントの互いの敵意感情を一層増幅していた。その後の様々な施策で、改善されているかもしれないが、直近の英国経済の不振の影響や、海外動向に大きく左右される国・地域だけに、根深い紛争要因が、またまた、後戻りはしないかと、心配してしまう昨今なのだ。

| | コメント (0) | トラックバック (0)